ツール・ド・フランス2020 第20・21ステージのメモと総括

第20ステージは総合最終決戦。序盤は平坦基調ながら、最後に1級山岳ラ・プランシュ・デ・ベルフィーユを上る36.2キロの個人タイムトライアル。

ここまでのログリッチとポガチャルのタイム差は57秒。両者ともTTは走れるのでログリッチが無難に守ってくるか。(というのが大方の予想)

前半にスタートしたカヴァニャのタイムを誰も上回れなかったが、去年TTで大怪我を負った天才青年ファン・アールトが今年こその走りでトップに。しかしここは意地があると言わんばかりのトム・デュムラン様が10秒更新! さすがだ。これはユンボの上位独占もあるか。今日は本気ではなかったようだけど、この2人に加えてマルちんもいるのだから、ユンボのアシストの豪華さに今更ながら驚く。

そして「おぉ!」と思ったのがリッチー・ポート。素晴らしい走りでロペスを逆転し、総合3位に浮上。キャリア終盤、自分がエースとなって走ったツールでの表彰台はおめでとうの一言。よかったねぇ…。

次いでいよいよポガチャルがスタート。前半から飛ばしていく。続いて最終走者ログリッチもスタート。するとなんと、ポガチャルがログリッチとの総合タイムをどんどん縮めていく。ポガチャルはステージも狙えるほどの好タイムで中間計測を通過。対するログリッチは表情もやや冴えないか??

スムーズにバイク交換を終え、ゴールまで5キロを切ってどんどん差を詰めていくポガチャル。そして、ついにバーチャルで逆転…!! これはまさかの歴史的瞬間?

そのままデュムランをも上回る驚異的なタイムでゴールし、あとはログリッチを待つのみ。山で巻き返すかと思ったログリッチだったが、ポガチャルとの差は広がるばかりで、かなり苦しそう。見守るデュムランとファン・アールトの表情には悲愴感さえ漂う。自身でも厳しいことは分かっているはずだけど、それでも最後まで懸命に踏み続けるログリッチの姿が胸を打つ…。

そして…ポガチャルから1分56秒遅れてゴール。最後の最後でマイヨ・ジョーヌを手放すことになった。

地面にうずくまるログリッチは無言。勝負の世界とはいえ、ここまでアシスト陣と共に頑張ってきてこの結果はさすがに気の毒…。アシスト陣も、アシストに徹していなければステージを獲れたような選手ばかり。その現実をも背負っていたエースの気持ちを考えるといたたまれない。

しかしポガチャルとアシストもここまで頑張ってきたのだから、これは本当におめでとう! とてもびっくりしたけど、よく考えれば57秒っていうのは決して不可能な差ではなかったのだろう。諦めずに攻め続けたポガチャルの勝利だ。

歴史的な勝負をこのコロナ禍の2020年に目撃した奇跡に、テレビの前でしばし呆然。

 

翌日、ついに第21ステージ、ツールがパリ・シャンゼリゼに戻ってきた! コロナ禍で何とか開催の道筋を探り、開催後も社会情勢・感染のリスク・それが及ぼす影響と闘ってきた大会運営の方々には頭が下がる。開催期間中にPCR検査があり、大会からの除外や大会中止の可能性と常に隣り合わせだった選手・スタッフ・その家族もどれだけ大変な3週間だっただろう。それが無事にパリまでやってきた。本当に凄いことで、栗村さんも言っていたけど「感謝」と「奇跡」だなぁと思った。ツール・ド・フランスという最高峰の大会の凄さを改めて感じた。

レースの方は、総合争いはもう昨日で決着しているので、今日はお祝いとスプリントだ。サガンマイヨ・ヴェールを奪いにいくようなことはしないと言っており、4賞は確定。

序盤のお祝いパレードでは選手みんなの笑顔を見られて幸せ。ログリッチも笑顔でポガチャルと話していて、さすがプロだなぁと。どのチーム・選手もリラックスしている様子で、見ていて和む。 

↓ 選手と一緒にシャンパンで乾杯! と思って準備したけど、今年はコロナの影響で乾杯タイムはなかった。

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しかしシャンゼリゼの周回コースに入ってくるとそこからは勝負。一気に緊張の度合いが高まる。例年のようにアタックが仕掛けられるが大きなタイム差にはならず、ラストに向けてスプリント態勢が築かれていく。何人かスプリンターは帰ってしまっているので、可能性があるのはユアン、ベネット、サガン、ファン・アールト、ヴィヴィアーニ、クリストフ、ボアッソンハーゲン、ピーダスンあたり。

そしてラスト1周。3週間の長い旅もいよいよ終わり…。いろんな想いがこみあげてくるなか、石畳の最後のガチンコスプリントを制したのはマイヨ・ヴェールサム・ベネット渾身のガッツポーズ! 自転車を持ち上げて、これまで溜まった感情を爆発させるように雄叫びを上げる。

サガンを徹底的にマークし、厳しい山岳を越え、アシストに支えられてきた男の意地のシャンゼリゼ制覇。これで文句なしのマイヨ・ヴェールだね! おめでとう。

2位はピーダスン、3位サガン、4位クリストフという結果。

 

すべての闘いが終わった後の表彰式では、3賞獲得のポガチャルが何度も登壇し、無邪気さと貫禄を見せていく。総合トップ3の表彰ではログリッチ、ポートも笑顔。ちびログリッチが終始モゾモゾしていて可愛い。ベネットも本当に嬉しそうでよかったし、スーパー敢闘賞のヒルシの今後も楽しみ。表彰される選手たちをチームの仲間や家族が祝福している様子には、こちらもほっこりした気分になってくる。

それにしても、凱旋門をバックにした夕暮れの表彰式は何度見ても美しい。今年も無事に見ることができて幸せだし、来年もまたこの感動を味わいたいね。

スタジオではしきりに大会関係者への感謝が述べられていたけど、視聴者からすれば J SPORTS にも大感謝。連日連夜、楽しい実況と解説で幸せな時間を過ごせました。

締めくくりのデスペラードには今年も感動!

…はい、というわけで、何回か書いてきたツール・ド・フランス2020のメモも今回でおしまい。

改めて、ツールって、自転車レースって人間ドラマだなぁと思った。特にツールは、3週間の積み重ねが大きなドラマになる大会。選手たちをずっと見続け、また実況・解説の人たちやファンの人たち、ジャーナリストの人たちと一緒に毎日固唾を吞んで見守るという体験が、大きな感動となって心に何か特別なものを残してくれる。この記憶をまた来年に繫げていく楽しみもある。

今年の大会は特殊な状況下で行われ、例年以上に強い記憶として残っていく気がする。

ひとまず3週間完走、選手にも関係したすべての人たちにも自分にも、お疲れさまでした。

 

この後はフレッシュ・ワロンヌ、リエージ・バストーニュ・リエージュ、ジロ、フランドルにパリ・ルーベにブエルタだ。まだまだ忙しい!