東京オリンピック自転車ロード(男子)覚書

2021年7月24日、午前11時、オリンピック自転車ロード(男子)スタート。

すごかった…。

レースは序盤ゆったりで逃げとの差は20分。ちょっと記憶にないほどの大差。おそらく猛暑の影響と逃げのメンツを考えてのペース配分(ロードレースは戦略・個人の脚質・展開等の要因によってほぼ必ず逃げとメイン集団に分かれてレースが進む)。その後イギリスの機関車トーマスらの落車はあったものの、スロヴェニアのトラトニック&ベルギー勢の鬼引きで引き締まってきて差が縮まる。スロヴェニアとベルギーはチーム力が上なので力を使わされるのは仕方ないところ(理由は割愛。とはいえいつものレースと違い完全個人種目のオリンピックでチーム戦の色が出るのは毎度モニャモニャ…)。そして逃げを吸収しメイン集団もペースが上がって人数がだいぶ絞られる。簡単に「絞られる」と書くけど、各国の代表選手が苦しくてついて行けずに脱落するってもう想像を絶する世界。

ここでの顔ぶれを見てみると、これがもう一流of一流、トップofトップ、変態of変態だらけで鳥肌。ここに相応しくない選手なんて誰もいない。知らない選手は一人もいない。この顔ぶれがレースの次元の高さを物語っている。まずはツール連覇で髪の毛が出てるポガチャル、ジロ制覇&ブエルタ総合2位、今年のツール総合3位で悔しかったカラパス、とにかく強い脚質ファン・アールト君(ワウト)、コロンビアは村長が脱落してウラン、ドイツのシャフマン、アダム兄弟のイエーツ兄弟のイエーツアダム、日本を知るモレマさんは苦しそうだがまたもや三味線か!? カナダはウッズ、アメリカはマクナルティ、イタリアはニバリの男気アタック後に残っていたベッティオル、そしてフランスはゴデュ! 期待ほどの成績を挙げられず批判もあっただろうがちゃんと残ってるあたり流石だし尊敬する。さらに最近ずっとエースのアシストに徹していたクウィアトが自分自身のために走ってる! 熱すぎる! 頑張れ! んでもう一人、これ誰? と思って見たらデンマークのフルサン(元フグルサング! ツールではまったく存在感を示せなかったけど、ばっちりここにいる! 強いよぉ凄いよぉ! 3週間にわたるツールの激闘からまだ1週間しか経っていない中、残るべき実力者たちがしっかり残って死力を尽くしている姿に早くも感動の嵐。これがプロやで…。

そしてレースは残り37キロでツール王者ポガチャルが貫禄のアタック! それに反応したのはウッズとマクナルティ。マクナルティは普段ポガチャルのチームメイト(アシスト)だが今日は敵(のはず)。これは熱い。どうなる!?

しかし差は思ったほど広がらず、ワウトを中心に比較的スムーズに回って先頭3名を捉えにかかる。本来なら広がってもおかしくない気配だが、ここはやはりオリンピックというタイトルのデカさゆえではなかろうか。悠長に牽制などしていられない。4年に一度の大勝負だ。自転車ロードには他にもステージレースでは3大グランツール(ジロ、ツール、ブエルタ)、ワンデークラシックにはパリ・ルーベ、ツール・デ・フランドル、ミラノ・サンレモ、リエージュ・バストーニュ・リエージュ等、そして世界選手権などのビッグタイトルが毎年あるが、所属チームを離れ国を代表して争う伝統のオリンピックはまた特別な価値を持つのだろう。

残り25キロ、先頭の3名を捕まえて再び一つになった集団から、マクナルティとカラパスがアタック! そしてカラパスが2段式ロケットでマクナルティを突き放し独走態勢に入る。後ろは再びワウトらが懸命に追うが今度は差が縮まらない。カラパス強い!

そのまま独走し、最後の富士スピードウェイに入って勝利はほぼ確定的に。喜びを爆発させるカラパスの後ろでは、銀銅メダル争いにシフトした後続の駆け引き。スプリントになるとやはりワウトが一枚上か。でもみんな消耗が激しい。

残り300メートル、まずはアダムとマクナルティが駆ける。続いてワウトが反応してスプリント。やはりワウト強い! と思ったらポガチャルがぐんぐん迫ってきてかわす勢い。どっちが前だ!? 

…カラパス金! ワウト銀! ポガチャル銅!

一瞬のタイミングを見逃さずアタックに反応したカラパスの研ぎ澄まされた勝負勘、足を一番使って強い走りを見せたワウト、王者の名に恥じぬ堂々たるレースを展開したポガチャル。

全員、先週までフランスを3400キロ走ってきた猛者たちだ。そんな選手たちが、この酷暑の日本で力と力、意地と意地をぶつけ合う最高のレースを見せてくれたことに心から感動した。フロックも展開のアヤも何もない、真っ向勝負の美しいレース。最も過酷とも言われるスポーツの究極の頂上決戦。

これが日本で展開されたことの素晴らしさはちょっと言葉では言い表せない。レース後、すべてを出し切って地面に倒れ込んだワウトの姿、メダルを逃した選手がカラパスを称える様子、そして表彰式での3人の笑顔を見て、ずっとロードレースを追ってきてよかったと思ったし、これからも応援していきたいと思った。ここで戦ったみんなは、この後それぞれのチームに戻り、チームメイトとして、またはライバルとしてシーズン後半戦を戦っていく。日本でのオリンピックを経てのロードレース界の勢力図はどうなっていくのか、よりいっそう目が離せない。

でもひとまず今は、レースの成功に尽力した関係者とスタッフ、そして最高の選手たちにありがとう! の気持ちでいっぱい。正直、夏の日本での開催がキツすぎるというのは明らかなので、次はもっといい季節に来てほしい。

最後に、日本代表の新城選手と増田選手。このメンバーの中での根性の走り、しっかり目に焼き付けましたよ! 新城選手の35位という結果は世間では関心を持たれないだろうけれど、その凄さはいつもロードレースを見ていると分かる。最後まで食らいつこうとした走りに胸が熱くなりました。

今回日本でこのレースを目の前で感じた誰かがバトンを繫いでいってくれるのではないか、そんなことを思わせてくれる素晴らしいレースでした。

完。

sports.nhk.or.jp

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