校正者の七つ道具 その六
6つ目は、「辞書」です。
よく、校正と聞くと「深い知識が必要な職業」と思われる方がいるのですが、実はそんなことないのです……(本当に)
なかには凄い人もいますけど、私自身は全然違います!
校正者にとって大事なのは知識の深さよりも、「(書かれていることがおかしいのではないかと)気づく力・疑う力」と「調べる力」だと言われます。
著者が思い込みや勘違いで書いてしまっている可能性がある文章を読んだ時に、「もしかしてこれ、違うんじゃないか」と察知する力と、それを調べ上げる力です。
もちろん、たとえば映画の記事ばかりを校正するなら映画の知識が深いに越したことはないですが、書籍の校正者がジャンルを選べることはほぼありませんし、たくさんの話題が出てくる本だってあります。
ですので、校正者に必要なのは知識の「深さ」よりは、「広さ」だと言えると思います。
どんな話題が出てきても、少し齧っているだけで、間違いを察知するアンテナの感度がまったく違ってきます。
「国会中継を見るほど政治には興味があるけどスポーツは一切見ない」人よりも、「政治もスポーツも夜のニュースでやってることくらいは分かる」人の方が向いていると言っていいと思います。
そんな校正者が、読んでいておかしいなと思った時、それを著者に投げる前に辞書や百科事典・専門書で調べて、自分の疑問のウラを取るのは必須。たとえそのことについて自分がどんなに詳しくてちゃんと知っていると思っていても、改めて調べます。思い込みには足を掬われますので(何度も経験あり)。
ちょっと調べたからといって著者に物申すほどの知識が得られるわけではありませんが、分かる範囲で指摘し、著者に確認をしてもらいます。
そのための資料としてやはり最も使用頻度が高いのは、基本的な『国語辞典』。
何気なく使っている言葉でも、実は意味が違ったということは本当に本当によくあります。(本当に!)
国語辞典は個人の好みがありますので、愛用しているものは人それぞれ。
ただ、1つの事柄を調べるのに少なくとも2冊は引きます。
「スタンダードな解釈を載せているもの」と「新しい解釈を採用しているもの」といった感じです。(前者は岩波、後者は三省堂、など…)
なるべく幅広く調べて、著者の記述が本当におかしいのかどうか、精査してから指摘をするのが最低限の態度だと思っています。
当然、どの辞書にも載っていない用法でも、著者が「それでいい」と言えば、そのまんまです。
我々の仕事はあくまで指摘をすること、疑問を出すこと。
おかしな点を見つけ、また、そこで誤った指摘をしないためにも、辞書は不可欠です。
↓ 上2つは基本的な辞書。下2つまであれば怖いものなしですね。私が一番好きなのは『大辞林』です。