好きなミステリー系小説11選

シンプルにタイトル通り。2022年9月時点。並びは50音順。

20代の頃に読んでいたものが多いかな。

ジョン・ディクスン・カー『三つの棺』

雪降るロンドンの夜、グリモー教授の書斎を謎の男が訪れる。そこで響く銃声。フェル博士たちがドアを破ると、胸を撃たれた教授が倒れており、密室状態の部屋から謎の男の姿は消え失せていた…。

凄い凄いと言われていて実際読んでみたら本当に凄かった古典。こんな謎なのにフェア。

旧版は訳がいまいちだった記憶があるので、新訳版で読み直してみたい。

ジョン・ディクスン・カー『ユダの窓』

結婚の許しを乞うために婚約者の父のもとを訪れたアンズウェルは、話の途中で気を失ってしまう。しばらくして気がつくと、父は胸を射抜かれて死んでいた。密室ゆえに犯行はアンズウェル以外には不可能だが、弁護人のメリヴェール卿は「ユダの窓」の存在が謎を解くカギだと言う…。

密室の謎だけではなく、ストーリーテリングの抜群の面白さと法廷劇のドラマティックさ。『三つの棺』より好きかもしれない。

A・J・クィネル『燃える男』

酒浸りのやさぐれた生活を送る元外国人部隊の兵士クリーシイに、イタリア人実業家の娘のボディーガードの依頼が来る。少女との交流を通してクリーシイの人生に光が射しはじめた矢先、無惨にも少女が殺されてしまう。怒りと哀しみに燃える男は、自らを昔のように再び鍛え上げ、復讐へと向かう。

主人公もカッコイイが周りの人間もみなカッコ良くて清々しい。いちいちグッとくる場面が満載。

マーティン・クルーズ・スミス『ゴーリキー・パーク』

モスクワのゴーリキー・パークで、雪の下から男女3人の死体が発見された。3体ともスケート靴を履き、顔と指紋が削ぎ落されていた。モスクワ人民警察の主任捜査官レンコが事件を追い、まずスケート靴の本当の持ち主を捜し始めるが、いつしか彼は大きな運命の渦に飲み込まれていく。

当時のソ連の社会情勢など完全に理解できない部分もあるが、それでもこれが奥深い作品だということは分かる。壮大なミステリーだがそれだけに収まらない。そして儚くも美しい場面が幾度となく登場する。その場面を何度も読み返して、頭の中で映像を繰り返し再生した。アルカージ、カーウィル、プリブルーダ、イリーナ、オズボーン…。キャラの立ち方も申し分ない。忘れがたい一冊。

ジョセフィン・テイ『時の娘』

国史上もっとも悪名高い王・リチャード三世、彼は本当に極悪非道の人物だったのか…? 骨折して入院中のスコットランド・ヤードのグラント警部は、退屈しのぎに史料をひもとき、王の真の姿を明らかにしようと推理を始める。

論文を読むかのような説得力。しかしその目線は紛れもない探偵のもので、事実を照らし合わせ、当事者の心理を読み、謎を解いていく面白さは純然たる推理小説のものだった。病室に出入りする人たちも非常によく描けている。

ロス・トーマス『女刑事の死』

刑事だった妹が、車に爆発物を仕掛けられて死亡した。上院の調査監視分科委員会で働く兄は重要な使命とともに真相を調べるため帰郷するが、徐々に妹の謎に満ちた私生活が明らかになっていく…。

駆け引きにつぐ駆け引き。決着がつくその時まで謎と緊張感が続く強烈なサスペンス作。

ジャック・フィニイ『ふりだしに戻る』

女友達の養父の自殺現場にあった、90年前に投函された一通の青い手紙。選ばれた現代人を過去に送り込むという、政府が秘密裏に進めるプロジェクトへの協力を持ち掛けられたサイモンは、これ幸いと手紙の謎を解くために1880年代のニューヨークへと旅立つ。

徹底して描かれる過去へのロマン。この徹底ぶりは凄まじく、上巻のほぼ全てをそれに費やしている。そのせいで読むのが少ししんどくなったりもするのだが、下巻に入ってある事件が起こるとそこからはもう圧巻。一番凄かったのは、○○○○○○○○○くるシーン。あれは凄い。思わず涙が出そうになった。

J・P・ホーガン『星を継ぐもの』

月面で、深紅の宇宙服を着た人類の遺体が発見される。チャーリーと名づけられたその遺体の所持品を測定すると、なんと5万年前のものと判明。だが、月へ渡るという高度な技術が5万年前にあるはずもない。彼はいったいどこから、どうやって、何の目的でここにやって来たのか。さらに、木星の衛星ガニメデで、より古い宇宙船の残骸が発見される…。

めちゃくちゃ科学的で論理的。それでいてさらにミステリー。もうただただ圧倒された。小説というより何かとてつもない大発見の記録を読んでいるかのような気分に。終わった後しばし「そうかそうだったのか…」とまるでこれが真実であるかのように思えて呆然となってしまった。

エド・マクベイン『死が二人を』

キャレラの妹の結婚式当日、花婿のもとに猛毒の蜘蛛が送り付けられる。電話で駆け付けた非番のキャレラは、同じく非番のクリングやホースとともに警護に当たるが…。

87分署シリーズ9作目。最高。巧すぎ。妹の結婚式という舞台ゆえの登場人物の面白さ、非番のキャレラ、クリング、ホース組と勤務中のマイヤー、オブライエン組が二方向から徐々に容疑者に近づいていく面白さ、そしてクライマックスのスピード感。さらにラスト1行の最高の贈り物。相変わらずそれぞれの描き分けと人間味あふれるちょっとしたひとコマが抜群に巧い。シリーズを読み続けてきた積み重ねがさらに面白さを際立たせる作品。なのでこれだけ読んでもあまり意味はない。同シリーズでは『サディ―が死んだとき』『夜と昼』『警官』『クレアが死んでいる』も甲乙つけ難い逸品。

スティーグ・ラーソン『ミレニアム』

雑誌「ミレニアム」の発行責任者ミカエルは、ある大物実業家の違法行為を暴く記事を発表するが、名誉棄損で有罪判決を受ける。時を同じくして、ミカエルは大企業の会長から、ハリエットという少女が失踪した36年前の事件の調査を依頼される。調査は難航するが、彼は背中にドラゴンのタトゥーが入ったリスベットという女性の協力を得ることに成功する。

伝えたいことを分かりやすくしっかり伝えるのがジャーナリストの仕事。小説家の書く小説より遥かに流暢で、圧倒的に読ませる。自分が最も好きなのは第3作『眠れる女と狂卓の騎士』。終盤、やや勢いに任せて筆を進めたような感じもするが、しかしそれこそがこの小説の醍醐味。書き手も読み手も登場人物も、一体となって駆けてゆく裁判シーンまでの下巻はスティーグ・ラーソンの面目躍如。真に人を惹きつける文章に既存の構成や型など関係ない。つくづく夭逝が惜しまれる。

パトリック・ルエル『長く孤独な狙撃』

腕利きのスナイパーで殺し屋のジェイスミスは、一週間前、初めて暗殺に失敗したことで引退を決断する。視力の衰えから、長距離狙撃が困難になっていたのだ。彼は湖水地方のコテージを購入し、そこで美しい未亡人アーニャと出会う。惹かれ合う二人だったが、アーニャの父ブライアントは、彼が一週間前に殺し損ねたターゲットその人だった。そこにブライアントを狙う新たな刺客が送り込まれてくる。真実を告げることはできないが、ジェイスミスは愛するアーニャとブライアントを守るために、再び狙撃銃を手にするのだった…。

引退を決意した殺し屋が、愛する者のために再び狙撃銃を手に立ち上がる…。 モロ好みの話で、あらすじを読んでいるだけでカタルシスが蘇ってくる。最後の数ページは何度読んでもシビレる。 風景描写なども素晴らしい隠れた傑作。訳文も情感に溢れ、タイトルも味わい深い。パトリック・ルエルはダルジール警視シリーズなどを書いたレジナルド・ヒルの別名義。

 

これらを超える作品に出会えることを期待しつつ、最近またいろいろと読み漁っているところ。そのうち更新できれば。